中国版「通信と放送の融合」――中国デジタル放送事情

 

  「通信と放送の融合」は中国でもホットなテーマとなっている。試行錯誤の末10年をかけて策定された中国版地上デジタル放送規格が2006年8月に発表。ブロードバンドネットワークの整備に伴い、デジタル放送で中心的な存在になるであろうといわれているIPTV(インターネットを利用した放送サービス)も9月から上海で正式に商用化され始めた。2006年はまさに中国の「通信と放送の融合元年」ともいうべき、節目の年なのだ。

(1)あいまいさを残した地上デジタル放送規格
 中国は1996年に高精細度テレビジョン放送(HDTV)を国家プロジェクトとして立ち上げて以来、有線、無線ともデジタル放送の規格化に軸足を移した研究開発を進めてきた。最近は、地上デジタル放送については清華大学(北京)の多搬送波方式「DMB-T」と上海交通大学(上海)の単搬送波方式「ADTB-T」が一騎打ちを演じていたが、難産の末、8月に統一規格が発表された。最終規格は2つの案を融合したとされている。しかし、詳しく調べてみれば、「融合」というより、2つの方式の「並存」という表現が適切で、玉虫色の強い「妥協の産物」の規格であることがわかる。放送事業者など配信側は両方式が並存しても技術上さほど困難ではない。しかしテレビメーカーなど受信側にとっては、明確な受信方式が決められていないというのが実情のようだ。しかも、両規格の最も根本的な違いは受信方式にあるのだから、端末メーカー関係者が戸惑うのも納得できる。両規格に対応できるよう、専用受信機に「ダブルチップ」を設置すれば解決できるが、コストはぐんと上がる。結局、メーカー側は規格が実施される2007年8月1日まで、市場や放送局の主管省庁である広電総局の動静を伺いながら右往左往する状況が続くだろう。

(2)放送局と通信キャリア、IPTV巡る主導権争い
 「通信と放送の融合」を巡って、中国ではその目玉であるIPTVについて以前から通信キャリアと放送局の間で熾烈な主導権争いが演じられてきた。中国ではIPTVの運営は免許制であり、それを交付するのは放送系の総本山である「広電総局」だから、通信キャリアも疑心暗鬼になるのは仕方がない。案の定、2006年4月に中国唯一のキー局である「中央テレビ」が、昨年の上海文広集団(SMG)に続き2枚目のIPTVの免許を獲得した。
 2社続けて放送系事業者が免許を取得したことに対して通信キャリアは不満を隠さないが、今のところ放送局は優勢のようだ。ただし、IPTVのインフラを握っているだけに、通信キャリアも引き下がる気はさらさらない。
 日本と違って、放送免許には行政地域単位の制限がない。ところが広電総局の横割りの組織体制も災いして、放送局は免許を取得しても地元の地方放送局からの反発で、すんなりIPTVを始めるわけにいかないというケースが出てきている。全国一律のネットワークを持つ通信キャリア側は、こうした放送局の問題はIPTVの全国展開に支障をきたすと主張する。
 既に通信の主管省庁である「信息産業部」などの政府関連部門に猛烈なロビー活動を行っており、通信業界も免許を取得できるよう巻き返しに躍起となっている。所属省庁間のしがらみも絡んで今後も両者のせめぎあいが続きそうだが、折り合いのつく妥協点を見出さない限り中国のIPTVの将来も暗くなるのは間違いない。

(3)最大経済都市、上海の模索
 2006年9月、中国最大の経済都市である上海が正式にIPTVの商用化に踏み出した。ハルビンに次いで中国2番目の商用化となったが、人口や経済の規模を考えると上海での商用化はIPTVの全国展開の試金石になるに違いない。
 上海のIPTVは世界で最も進んでいるといわれる「H.264」方式を採用し、IPTVの免許を持つ上海文広集団と中国最大手の通信キャリアのチャイナテレコムとの連携運営。詳細は明らかにされていないが、文広集団はコンテンツの製作・提供、チャイナテレコムはネットワークの運営と付加価値サービスの開発・運営という分業体制を築いている。
 今のところ、アナログ・衛星テレビなどを含めた放送コンテンツやオンデマンド放送、金融や娯楽関連の情報サービス、双方向技術を応用したサービスの4種類のサービスを提供する予定。年内にユーザー数5〜7万人を目指しているという。
 消費者層を細分化し、3つのタイプに分けてそれぞれの料金体系で運営していく。海外メディアからの注目度も高い。香港の「鳳凰テレビ」や米ニューズ・コーポレーションの「スターTV」、米国の「ナショナルジオグラフィック」などは既に文広集団にコンテンツ提供の意向を表明している。また、文広集団は銀行やネット系のコンテンツ企業にも積極的にアタック中と言われている。上海は昔から「魔法の都」といわれてきたが、果たしてその魔法は利益関係の複雑な放送局と通信キャリアを融合し、IPTVの拡大に火をつけられるか。見極めにはさらに時間がかかりそうだ。

(4)IPTVは「通信と放送の融合」の牽引役になれるか?
 「通信と放送の融合」をゴールとすれば、アンカーの本命はやはりIPTVだ。しかし、そのハードルは決して低くない。IPTVそのものの普及はもちろんのこと、既にビジネスとして確立しているほかのデジタル放送であるケーブルテレビや衛星テレビ、そして今後本格化する無線や地上デジタルなどと競争しなければならないのだ。
 2005年末時点で850万のデジタル放送ユーザーのうち、IPTVは試験放送の加入者を含めて1万しかないのは否定できない事実なのだ。コスト的にも、追加投資を必要とするIPTVは今の時点でほかのデジタルメディアの何倍も高い。もちろん、オンデマンドという切り札をIPTVは持っているが、コンテンツ面で違いが出せない限り、宝の持ち腐れになりかねない。
 IPTVの規格策定は急ピッチで進められているが、年内発表という目標には何の保証もないのが現状だ。それは市場先行型のIPTVにどれぐらい影響を与えるのだろうか?「2010年に中国のIPTVのユーザー数が2000万に達する」(IDCレポート)というような楽観的な数字は出ているが、あまりにも複雑なマイナス要因を克服し、「中国版通信と放送の融合」の牽引役になるには、IPTVの道のりはまだまだ厳しい。

 


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